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東京高等裁判所 昭和61年(く)48号 決定

少年 N・J(昭44.8.20生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用するが、所論は、要するに、原決定の処分の不当を主張するものである。

そこで、関係記録を調査して検討するに、本件各非行の内容は、昭和60年5月18日から同年12月26日にかけて、他の共犯少年とともに敢行された5回にわたるトルエンの窃盗ないし窃盗未遂というものである。少年は、中学在学中のころからシンナーの濫用に耽るようになり、これまで毒物及び劇物取締法違反のほか、窃盗、傷害等の非行により4回家庭裁判所に事件が係属し、保護処分に付されたことはないものの、その都度いわゆる保護的措置を講じられ、自力による更生の機会を与えられながら、一向にその習癖を改めることなく、かえって一層シンナー依存の傾向を強め、仲間と共に吸入するシンナーを手軽に入手する手段として本件各窃盗を反覆累行しており、その非行性はかなり深化しつつあるものと認められる。しかも、少年は、享楽志向が強い反面、耐性に乏しく、他に追従迎合しやすいといった性格上の負因を有していることが指摘できるのであって、その性格面の矯正は、不良な交友関係の改善とともに早期にこれを行う必要があるものと思われる。確かに、少年はこれまで保護観察に付されたことはないのであるから、今回は専門機関による在宅保護を試みるという処遇意見もあながち排斥し難いところがある。しかし、既に述べたように、少年の非行性は外見に比し根深く、かつ、近時それがとみに現実化しており、再非行の危険性も軽視し難い状況にあることが窺えるうえ、少年の保護環境は甚だ劣弱であるといわざるを得ず、保護者の保護能力にも限界があり、その要保護性も高いと認められることなどの諸事情にかんがみると、在宅による保護は必ずしも適切とは思われず、むしろこの際少年を矯正施設に収容して、将来健全な社会生活が送ることができるよう、規律正しい生活のもとに適切な矯正教育を施すのが相当と考えるべきであろう。少年については短期の集中的処遇がより効果的であるとして、特にその旨の勧告を付したうえ、これを中等少年院に送致した原決定の処分は是認すべきである。所論は、共犯者のAは少年より1歳年長であり、本件各非行に際しても同人が主導的立場にあったのに、同人は保護観察の処分を受けるにとどまったのは不公平であり、少年はAの処分を知ってひがんでしまっているので、少年についてもこれと同等の処分をされたいというのである。いうまでもなく、少年に対する調査審判の手続、殊に終局的処遇の選択については、関連事件を含め、家裁全体の事件処理との均質性、公平性を保つよう適切な配慮がなされることが望まれよう。しかし、共犯少年の間で別異の処遇がなされたからといって、ただちに著しい処分の不当があったとすることはできない。およそ非行少年の処遇は、当該少年の抱えている問題性、すなわち固有の要保護性に応じて個別的に決せられるべきものであるから、非行の態様のみに着目し、いたずらに共犯少年に対する処遇との不均衡をいう所論は当たらない。そして、少年に対する原決定の処分が是認すべきものであることは、既に述べたとおりである。論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項後段、少年審判規則50条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 寺澤榮 裁判官 片岡聰 小圷眞史)

抗告申立書〈省略〉

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